医務官より

平成27年7月14日

医療事情

    ガーナ共和国は熱帯気候に属し、年間平均最高気温30.8度、年間平均最低気温23.4度、湿度60~85%と高温多湿で、乾季(11月から3月の前後)と雨季(5月から9月の前後)に分かれます。12月頃から2月頃にかけて、はまターンと呼ばれるサハラ砂漠からの砂を含んだ風が吹き寄せるので、暑くどんよりとした埃っぽい日が続きます。ハマターンが終わると直接太陽が照りつけ、猛暑になります。その後雨季に入ると気温が少し下がり、比較的過ごしやすくなります。高温多湿な気候に加え断水や停電が頻繁におこるので、衛生状態が悪く、食べ物や飲み物を介した感染性下痢症が多くみられます。また,多くの風土病があります。とくにマラリアは当国の病院受診者の受診理由の中で最も多く,一年中流行し治療が遅れれば死亡する熱帯熱マラリアです。当国に滞在し生活するためには,これら感染症への対策が不可欠です。

     一方,当国の医療水準は極めて低レベルとなっています。医療機関の設備や医療機器の整備が十分でなく衛生基準も十分ではありません。医療従事者数は極度に不足し,例えば医師数は対人口あたりで日本の1/25となっています。公立病院は老朽化しており,多くの患者さんで溢れています。大都市に限り富裕層や外国人向け検査・入院施設を完備した私立病院がありますが,それでも軽症の対応しかできません。重病の場合や手術・処置が必要な場合には,海外旅行保険会社等の担当医あるいはかかかりつけ医に相談してください

    薬局は市中にたくさんありたいていの薬を手に入れることが出来ます。しかしながら、偽薬や期限切れの薬が出回っている可能性も否定できません。可能であれば十分量の処方薬を出国前に準備しておくことが望まれます。

    万一の場合,必ず加入している海外旅行保険会社等に受診する救急病院を紹介してもらってください。救急車はありますが十分な体制ではないので病院へはタクシーか自家用車を利用してください。

    血液製剤は十分に検査されていません。輸血を受けるとHIV・肝炎・マラリア等に感染する可能性があり危険です。輸血を受けなければならないときは海外旅行保険会社の担当医あるいはかかりつけ医に必ず相談してください。

    万一の緊急移送に備えて,医療先進国で医療を受けられる保険額の旅行傷害保険に必ず加入してください。

    日頃から健康に留意しガーナ入国前に治療を済ませるようかかりつけ医に相談してください。ガーナ入国の数ヶ月前には旅行医学専門医に予防接種や予防薬について相談してください。

かかり易い病気・怪我

(1)マラリア(ハマダラ蚊が媒介)

    最も注意すべき病気です。年間約100万人以上が罹患し死亡原因の1位(12.3%)を占めます。首都アクラでも感染します。一年を通じて感染者が出ます。当国においては,致命率の高い熱帯熱マラリアがほとんどです。予防として,蚊が活動する夕方から明け方の外出を控え,外出するときはなるべく長袖・長ズボンを着用し,虫除けスプレー等蚊の忌避剤の使用を勧めます。さらに室内への蚊の侵入を防ぐために,窓に網戸を張り,窓を閉めてエアコンを使用してください。蚊取り線香や電気式蚊取り器,蚊帳も有効です。近年,首都アクラでマラリアが増えていることもあり,駐在する外国人の中で予防薬を内服する方が増えています。滞在の期間や形態を勘案し,予防薬服用の要否とその種類を旅行医学、熱帯医学専門の医師に相談してください。万一,38度以上の発熱があれば,マラリアを疑い最寄りの医療機関を受診してください。予防薬は,当国内の薬局でも購入することができます。

(2)黄熱病(シマ蚊類が媒介)

    当国は,黄熱病の汚染地域となっています。特に2011年から増えています。激しい頭痛・腰痛と発熱で始まり,死亡率の高い病気です。黄熱病予防接種は,当国の入国条件になっていますので事前に接種をして,有効なイエローカードを持参して入国してください。

(3)旅行者下痢症(食べ物や飲み物で感染

    食べ物等を介して感染するサルモネラ,腸チフス,赤痢,アメーバ症,コレラ等多くの経口感染症がみられます。腸チフスワクチンの接種を勧めます。先進国からの旅行者が当地に滞在し,対策無しに飲食を続けると1ヶ月で80%が感染性下痢症に罹患するとのデータがあります。嘔吐することもあります。ホテル内を含むレストラン等で食事をする場合は,十分加熱した物を食べ,生野菜やカットフルーツも警戒してください。飲料水は,蓋のされたミネラルウォータを使い,水道水や氷等は避けてください。下痢症は死亡原因の3位(6.0%)を占めます。

(4)デング熱(ネッタイシマ蚊が媒介)

    この病気は都会の汚れた水でも増殖するネッタイシマ蚊が媒介し日中に活動するので旅行者が感染する可能性があります。症状は急性の頭痛、関節痛、筋肉痛を伴う発熱で発疹をみることもあります。急性症状は10日程続き、回復には2-4週間程かかります。出血傾向を示すものはデング出血熱と呼ばれ重症です。

(5)狂犬病(犬など動物が媒介)

    狂犬病はウイルス疾患で主に犬などの動物が媒介します。ガーナでは動物に咬まれたり引っ掻かれると感染する危険があるので動物と一定の距離をおいてください。感染すると神経に沿ってウイルスがひろがり麻痺を引き起こします。脳に感染すると昏睡や死亡の原因となるので受傷後は速やかに医療機関を受診しワクチン接種を行ってください。

(6)A型肝炎(食べ物や飲み物で感染)

    A型肝炎はウイルスが人から人あるいは食べ物や飲み物を介して経口的に感染し、稀に劇症化します。不衛生な環境では感染する危険があるので,A型肝炎は抗体の有無を確認のうえワクチンの接種を勧めます。

(7)髄膜炎菌髄膜炎(咳やくしゃみで感染)

     当地はアフリカ髄膜炎流行ベルト地帯に位置し,北部を中心に乾季に流行します。まれな疾患ですが,発症すれば重篤になります。感染者と接触すると感染する危険があります。予防として予防接種が有効です。地方に長期滞在する方は接種を考慮してください。当地で一般的に接種されるワクチンは二価(A,C)ですが,最近はWタイプが流行することが多いので四価(A,C,Y,W)ワクチンの接種を勧めます。

(8)住血吸虫症(水浴で感染)

    住血吸虫症は淡水から寄生虫が直接皮膚に侵入することで感染する疾患です。ガーナでは西アフリカ最大の湖沼地帯(ボルタ湖およびボルタ川)があり,その流域を中心にガーナ全土がWHOによりビルハルツ住血吸虫の流行地に指定されています。ビルハルツ住血吸虫の感染は,河川や湖沼等で水浴中に皮膚より感染する事が多く,素足やサンダル等での入水は感染の機会となります。ビルハルツ住血吸虫症は膀胱壁の障害に基づく血尿、排尿障害,腎尿路系の二次感染などが主症状で,さらに慢性期には膀胱癌をともなうことが問題となっています。

(9)HIV/AIDS,B型,C型肝炎(血液や体液で感染)

    国民(15歳から49歳)の1.8%前後がHIV感染者と報告されています。HIV/AIDSは死亡原因の2位を占めます。HIV,B型,C型肝炎は主に血液,体液を介して感染します。ガーナでは肝炎を多く認めますので,輸血を要する事態が発生すればこの点に十分な注意が必要となります。B型肝炎は,抗体の有無を確認のうえ,ワクチンの接種を勧めます。

(10)結核(咳やくしゃみで感染)

    ガーナでは2012年に15198人の結核感染者を認め,そのうち10.7%の方が亡くなっています。感染者と接触してもすぐに感染することはありませんが,感染者と長時間接触していると感染する可能性があります。運転手やメイドなどを雇用される方は使用人の健康に留意してください。

(11)その他寄生虫症

    リンパ系糸状虫症,オンコセルカ病,腸管寄生虫症(回虫症,釣虫症),トリパノソーマ症,リーシュマニア症等が認められます。

(12)ラッサ熱

    この病気は,ネズミ等齧歯類が媒介する死亡率の高いウイルス病です。患者からのヒト-ヒト感染もあります。2011年11月頃から,北部を中心に散発的に患者が確認されています。ネズミを見かけるような不潔な住環境で危険性があります。また,近隣で患者発生の情報があれば,体調の悪い人と接しないようにしてください。

(13)脱水および日射病(熱中症)

    当地に滞在しているだけで,体感する以上に発汗し,脱水に陥ることが多いです。特に、子供と高齢者には注意してあげてください。継続すると,頭痛・めまいに繋がり,さらに放置すると致命的になる事さえあります。外出時や運動する際は,帽子や長袖等の日よけ対策を十分にし,こまめに水分補給をしてください。

(14)交通事故

    道路の整備が需要に追いつかず,交通渋滞が頻発しており,運転マナーも悪いことに加え,停電等で信号機が消えていることも多く,特に夜間は街灯も少なく危険です。交通事故に注意してください。唯一の公共交通機関である乗り合いバス(トロトロ)や値段交渉式タクシーは,安全面に難があります。運転手付きレンタカー等の利用を検討してください。

(15)精神の不調

    ガーナに滞在する方の中に精神の不調を来す方が見られます。ガーナの環境やガーナ人の気質への順応が容易でないこと,マラリア罹患への不安,着任直後から感染性下痢症を繰り返すこと,ストレスを発散できるレジャーが少ないことなどが原因として挙げられます。しかし,精神の問題は多くの要因の複合である場合が殆どで周囲の状況を改善しても精神的な問題解決に至らないケースが多く見られます。

健康上心がける事

(1)水

    水道水は衛生的とは限りません。口に入れる水は信頼できる浄水器を使用するか一度煮沸したものを使う方が安全です。腸管感染症を予防するため飲料水は1分間煮沸したものを使用してください。ミネラルウォーターを利用するときはなるべく広く知られた銘柄を選び,汚染されていないか確認したのち,開封したものは早めに飲み終わるように注意してください。水道の断水が日常的な状況ですから,滞在先は衛生的な生活用水が十分確保された所を選ぶ必要があります。

(2)食物

    調理時は手指の手洗いや調理器具の洗浄など一般的な衛生を心がけてください。家族や使用人の衛生教育も重要です。外食するときは信頼出来る衛生的なホテル・レストランを選び,食事するときは加熱処理した物を出来るだけ早く召し上がりください。カットフルーツ,生野菜,氷,濡れた皿やグラスで飲食物が供された場合は飲食物が病原体で汚染していることがあるので注意が必要です。

(3)病害昆虫、動物

    マラリアに対する防蚊対策を取ってください。可能であれば滞在形態や期間に限らず,マラリア予防薬を服用してください。寄生虫や特殊な細菌に感染する危険が高いので,川や湖での水浴や水泳は控えてください。特定の蠅の幼虫が洗濯後の衣服を介して皮膚に感染する病気(蠅蛆症)があります。衣類は室内に干すか,アイロンをかけてから着用するようにしてください。全国に生息するツェツェ蠅は,吸血昆虫で,トリパノソーマというアフリカ眠り病の病原虫を媒介します。刺されることはあまり多くありませんが,屋外では,薄い色の長袖長ズボンの方が安全です。狂犬病に感染した犬,猫などの動物がいるので飼い主不明の動物や野生動物に不注意に近寄らないでください。

(4)ガーナの気候、環境

    通年高温多湿の環境のため,室内にカビが生えやすい状況です。カビは,喘息等アレルギー疾患の原因となります。カビ臭い所,湿気の多い住宅やホテル客室を避け,除湿を心がけましょう。前述の環境のため,皮膚疾患等予防に身体や衣服を清潔に保つことが必要で,適切な入浴と洗濯は欠かせません。日中の屋外は,日差しが強いので長袖を着用し帽子を被り,また,熱中症や脱水症に留意してください。レジャーが少なくストレス要因が多い状況ですので,精神の不調を来すことのない様に日頃よりストレスの発散とメンタルケアに心がけてください。